暗い闇の世界、魔界。
しかし、それは魔界そのものが暗い訳ではなく魔界と呼ばれる場所が暗い所にあるというだけだ。
魔界は、天界・人間界より争いが少なくむしろ平和といえる場所だ。
もちろん魔界が元から平和だった訳ではない。
魔王エッグマンの誕生。それが平和な魔界ができた1番の理由だ。
彼は平和を愛し、争いを嫌い、できるだけ全員が平等になるような社会を目指し成功を収めた。
しかし、そんなある日――

「何ということだろう・・・。」
エッグマンは苦悩していた。
ここ最近減り続けていた暴力犯罪が急増したのだ。
「いかがいたしましょうか?」
「いますぐこの犯罪を犯した人達を捕まえて、尋問してくれない?」
「了解いたしました。」
報告にきた部下の姿が消えるまで目で見送った後、エッグマンは溜息をついた。
たしかに、昔に比べれば今の魔界は平和である。
しかしそれは自分の目を向けている地域だけにしかいえないことであり、自分の目の届かない所では争いが起きているのだ。
(やっぱり全地方をくまなく見回らないと・・・)
コンコン
考察している彼の耳にノック音が響いた。
「かぎは開いてるから、入っていいよ。」
「失礼いたします、魔界四天王の件ですが――」
男の言葉を聞くと彼の顔から微笑みが消え嫌悪の表情に変わった。
「その提案なら却下したはずだけど?」
「ですが――」
「うるさい、どんな理由があろうとそんな卑怯なことはできない!!」
「・・・犯罪者を含めた全悪魔の資料を置いていきます。四天王をつくらないとしても目を通しておいたほうが良いですよ。」
しばらくの沈黙の後、男は顔を曇らせながらそう言って部屋を出て行いった。
「・・・ゴメン。」
エッグマンは男の後姿を見ながら呟いた。

「ふー。」
誰もいなくなった書斎でエッグマンは全悪魔のプロフィールをチェックしていた。
半分くらい読み終わったが前半は高学歴者や貴族などで同じようないでたちをしていて見ていてあまり面白くない。
(楽しんで読むために作られた訳じゃないから当たり前なんだけどね。)
残された前半のページを流し読みしながらエッグマンは四天王か、と呟いた。
四天王制度とは、罪人の制裁や暗殺などのいわゆる「汚れ仕事」を押し付ける魔界四天王という機関を作る制度である。
四天王という名の通り4人組で構成され1人死んでしまったらまた1人入れるといった形で作った魔王が王位をおわれるまで永久活動する。
今まであまり使われることが無なかったが平和を目指した珍しい魔王の中ではごく普通に使われていたらしい。
しかし、エッグマンにとってこの機関は平和を害するものとしか思えなかった。
(できればあんな機関は作りたくないな・・・)
流し読みしていたプロフィールが後半にさしかかろうとしたとき、珍しい悪魔がめにはいった。
「あれ?この娘、下級悪魔なのにエリート学校生なんだ。」
魔界にも貧富の差があった、下級悪魔と呼ばれるのは決して能力が低い者ではなく貧しい家に生まれてきた者のことを言った。
しかし、この貧富の差が能力の差にもなりつつあった。
なぜなら、魔界にも塾などがあったからである。
貧しい者は塾にいけないので塾に行っている者に比べてどうしても能力が低くなってしまうのだ。
しかし、本当のことを言えば貧富の差などはあまり関係が無いのだ。
ようはやる気の問題である。
(どんな娘なんだろう?1度会ってみたいな・・・)
ボーっとそんなことを考えながらエッグマンは後半のプロフィールを見始めた。
後半は下・中級悪魔や犯罪者などらしい、殺人や恐喝などの凶悪犯罪者からパンツ泥棒なんていう情けないのまでいる。
(この人達はどんな気持ちで犯罪を犯したのかな?)
数ページめくると信じられない事実がエッグマンの目に飛び込んできた。
「10歳で『天界送り』だって!!?」
天界送りとは2年ほど前まであった重罪を犯した者を当時大戦争を起こしていた天界へ両手・両足を拘束したまま放置してくるといった刑罰だ。
そんな重い刑に10歳という若さで処された人がいたというのだ。
(もう処刑決行日から5年も経ってる・・・でも――)

次の日
コンコン
彼の耳にいつものようにノックの音が鳴り響く。
「入って。」
「失礼します、御用とは何でしょうか?」
「魔界四天王の話なんだけど・・・」
「あ、そのことですか・・・」
昨日の1件のことがあったせいか男の顔が暗く沈む。
「もう言いませんから、どうか解雇だけは・・・」
「いや、そうじゃなくて。」
「はい?」
解雇の話ではないことを知って安心したのか男の顔に明かりが戻る。
しかし、同時に自分が呼ばれたことの謎ができたのでなんとも言いがたい表情をしている。
「四天王制度を施行するよ。」
その一言を聞くと男は状況が把握できずに混乱してしまった。
「え、どういうことですか?」
「いいから、早く準備をして!!」
大声で我に返った男は「はい!!」とだけいってその場を去っていった。
(間に合ってくれ――)
エッグマンは見えない空に向かってそう願った。

四天王制度施行の準備は数日で終わった。
手際のよさに不信感を覚えながらもエッグマンは四天王制度に必要な4人組集めに専念した。
1人はもう決まっていた。
生きていればの話になってしまうが5年前に天界送りにされた青年だ。
もともと、彼を助けることが目的で施行した制度だ彼をいれなけば話にならない。
早速次の日から捜索活動が始まった。
しかし、願いも空しく何も知らせが無いまま2ヶ月ほど経った。
「エッグマン様、そろそろ4人組を決めないと・・・」
「うーーーーっ・・・4人組集めの期間はいつまでだっけ?」
「明後日までです。」
「ごめん、ぎりぎりまで考えさせて。」
両手を合わせて謝りながら、エッグマンは弱々しくそう言った。
その次の日
ようやく例の青年が見つかったという連絡を受けてエッグマンは面会室へ急いだ。
10分ほどで着いてドアを開けると、薄黒い肌の目つきの悪い青年が暴れていた。
「離せ!!テメェ等ぶっ殺すぞ!!」
暴れている青年の目は白く、もう機能していないことは明白だった。
たぶん、もうここがどこなのかも分からないのだろう。
「暴れないで、大丈夫ぼくは敵じゃない。」
エッグマンが声を掛けると青年は暴れるのをやめて彼の方を向いた。
「なんだお前?戦意の欠片も感じねぇな・・・」
「あたりまえだよ、戦う気なんて少しもないからね。」
エッグマンの言葉を聞くと青年は毒気を抜かれたようにぐったりしながら椅子に腰掛けた。
「名前は?」
「プロフィールを見たんじゃないのか?」
「え、誰がそんなことを?」
エッグマンが尋ねると青年は後ろに並ぶ兵隊達を指差した。
エッグマンは兵隊達をにらみつけるとこう言った。
「・・・減給。」
とたんに兵隊の顔が青くなり一斉に謝罪を始めたがエッグマンはすべて無視して話を続けた。
「その様子だとどうして呼ばれたかも分かっていそうだね。」
「ああ、まあな・・・」
青年にそう返されるとエッグマンは部が悪そうな顔をした。
「別に怒ってなんていない・・・第一、お前が僕を助けようとしてくれていることは知っている・・・。」
「でも――」
「嫌な理由で会うことになってしまったが使用が無い。」
青年に励まされてる内にエッグマンは奇妙なことにきがついた。
「あれ、目の色変わってる?」
さっきまで白かったはずの目が黒くなっていたのだ。
「ああ、それは・・・」
今度は青年の方が部の悪そうな顔をした。
「それは?」
「僕がキャラクターズ(多重人格者)だからだよ。」
「そうなの!!?」
エッグマンはプロフィールを取り出して何度も読み返した。
が、どこにも彼がキャラクターズだと書いてなかった。
「プロフィールに書いてないことが不思議なんだろ。」
「う・・・うん。」
青年は大きく一回息を吐いて他の奴等に席を外して貰えないかと言った。
エッグマンはすぐに全員を廊下に追い出すと話を続けるように促した。
「俺が天界送りにされた理由は知っているか?」
「悪魔殺しだよね・・・」
青年はそれを聞くと苦い顔をしながら頷いた。
「誰を殺したの?」
「名前は知らない。」
それを聞くとエッグマンの目が急速に冷めた。
「名前も知らない人を殺したの?」
「まて、ちゃんと理由はある。」
「理由?」
エッグマンの目を避けるようにしながら青年は話しはじめた。
「プロフィールにも書いてあるが俺は産まれたときから皆と違っていた、悪魔には魔力があるのは当然のことでありそれが悪魔の誇りとされていた。
 しかし、俺は魔力をほとんど持たずに産まれてしまった。つまり出来そこないだったんだ。」
エッグマンはそのことが原因でいじめられる人を何人も知っていたしかわいそうだとも思う。
「けどそれは人を殺す理由にはならないよ!!」
エッグマンが叫ぶと青年はこれだからガキは、と言いながら頭を掻いて一息ついた後でまだ続きがあることを告げ、話を続けた。
「言っておくがお前が思っているみたいにいじめられたりもしてないし、俺には怪力があったから戦闘にも困らなかったんだよ。」
「じゃあ、なんで悪魔殺しなんて――」
エッグマンが口にしかけたとき、青年の目が白く変わった。
「ウルセェんだよ、人の話は最後まで聞けって習わなかったのかこの糞チビ!!」
いきなりの罵声にすくみあがっているエッグマンを見ると黒い目に戻った青年はエッグマンにごめんな、と1言謝ると話を続けた。
「俺は何不自由なく暮らしていた。中級悪魔だからある程度の金もあったしな・・・」
青年はそう言いながら遠くを見つめた。
「どうしたの?」
恐る恐る聞いてきたエッグマンになんでもない、といって青年は再び話しはじめた。
「しかし、そんなときに条例がだされた。『N.M.R.条例』だ。」
「N.M.R.条例?」
首を傾げるエッグマンをみて有名な話だと思ってたんだけどな、と呟きながら青年は続けた。
「Not Magicpower Ruin(魔力無しの破滅)条例、魔力の少ない者は次々に殺されていった。もちろん俺も例外じゃなかった。
 だから俺は抵抗したんだ。」
「そして・・・殺してしまったの?」
「ああ、手元がくるってな。」
「そうだ、どうして君はキャラクターズになったの?」
「それは簡単なことだ、『欲しかったから創った』それだけの事だ。」
サラッと言ってのけた青年の言葉を聞いてエッグマンは驚愕した。
(新しい人格を自らのてで創り出す悪魔なんて聞いたことも無いよ・・・)
しかし、実際にそれをやってのけた悪魔が自分の部下として目の前にいる。
(下手をしたら僕以上の人材じゃないか・・・)
エッグマンは心の中で世の中は広く、狭いと溜息をついた。

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