幽霊

よし、まず現状の確認からだ。
場所は俺の住んでるワンルームマンションの俺の部屋、適度に散らかってて生活観のある見慣れた部屋だ。
で、今目の前にいるのははサークルの同僚の瀬戸口 和樹。
手には包丁だ、こりゃ正気の沙汰じゃないな。
とどめに俺、山下 悠司が足元で死んでいるときている。

思いっきり殺人現場なわけだが、じゃぁ、なぜ俺はここにいるんだ?
足元で倒れてるのは俺だから当事者なのはわかった。
でもなんで見下ろしている?
あ、そか殺されたんだからこれは幽体離脱というやつだな。
いや、これは生きてる人間のことだからこの場合違うのか?
もういいや、心霊現象ってことで。
瀬戸口にも俺は見えてるみたいだ、こっち見て口をぱくぱくさせてる。
普通死んだらあの世に行くだろ、もしかして迎えでも来るのか?
うん、死神とか言うしな。
そうなのかもしれん、ここは待ってるか。

「な・・なんで、お前俺に取り憑くのか?なんか未練でもあるのか?」

取り憑くなんてめんどくさい、こいつの行くとこ全部に着いて行くなんてごめんだ。
安心しろ、お前がかわいい女じゃない限り取り憑いたりはしない。
てかな、自分で殺しといて未練も何も無いだろう、あつかましい。
未練か、俺は未練があるから現世に残されているのか?
おいおい、未練が何かから探さなきゃいけないのかよ、
こんな本人が忘れてるような未練はいいからとっとと天国連れてってくれんかな?

「おい・・・聞こえてるのか?」

瀬戸口うるさいぞ、こっちは考え事をしているんだから静かにしてほしいね。

「おい!返事してくれよ!!」

もう、俺の死体は無視ですか?
ちょっとはいたわってくれてもいいんじゃない?
せめて目だけでも閉じてよ。
さて、ここは返事をしなきゃならんのかな。

「ん?聞こえてるぞ?」

さて、声が出たはいいがこれが生身の人間にも伝わるかどうかは微妙だな。

「お前、死んだのに・・・幽霊になっちまったのか?」

お、ちゃんと伝わってた

「どうやらそうみたいだな。これでお化け屋敷も怖くないな。」
「いや、何でそんなに冷静なんだよ、死んだんだぞ?」

と言われてもなぁ、今の俺には死んだなんて思えないわけだが。
死体の方が偽物だと言われたら俺はそっちを信じるよ。

「そうは言っても実感ないもんでな、足もあるし、半透明でもないしな。」
「まぁ・・・確かに・・・」
「試しにそこの壁通り抜けられるかやってみるか」

ゴッ

「いてぇ、幽霊にも痛覚はあるみたいだ。一つ利口になった」

死んでまで情けないな俺、でも痛いんだ、いけると思って結構な勢いで突っ込んだから。
だからうずくまっててもそっとしといてくれ。

「・・大丈夫か・・・?」

最初と比べてずいぶん冷静になったな瀬戸口。
こいつが図太い神経の持ち主なのか俺がこいつを冷静にしてしまうほど馬鹿なのかどっちだ?
個人的には前者を希望したいところだがさっきの行動から後者を捨てきれない自分が悲しい。


まぁ、俺はこうして幽霊になっちまったわけだ。


さて、そんな俺はあの後瀬戸口の死体遺棄の手伝いをして部屋の掃除をして…と色々手伝ったわけだ。
その後自室から適当に娯楽品を持ってきて今は瀬戸口のマンションに居候中だ。
食費は幽霊にはかからないが光熱費は全部あいつ持ちだからな。

「取り憑いちゃおっかなぁ?」

って言ったらあっさりオーケーしてくれた。
このくらいやってもバチはあたらんだろう。
ん、そうこうしているうちに瀬戸口が買い物から帰ってきた。

「おい、幽霊、人の家に居座っといてなにPS2なんてやってんだ。」

みたままの言い方だなこいつは、もう少し捻ってくれんもんかね。

「うるへー幽霊って呼ぶな、お前もやるか?ぷよぷよフィーバー。」
「俺はスーパー世代だからいいよ。」

いや、俺もそうなのだが?

「そうか、俺もこのフィーバーモードは邪魔だと思うね、連鎖のありがたみが無くなる。」
「さいですか、俺は飯にするけどお前はいつもどおり要らないんだろ?」

そうなんだよ、この体何も食べなくても生きていけちゃうんだ。
いや、死んでるんだった。
食べることが生活の一部だったから結構物足りないわけだ。
食べることもできるがその質量はどこに消えた?って感じになる。
今んとこここだけだな自分が幽霊だって実感できるのは。
現在は食費軽減のために食べずにいるってわけだ。

「おう」

今作ってる8連鎖をつぶすのはもったいない。
ミキティって変な名前だな、アルルもそうだったがシェゾも消えたのは残念だ。

「お前ホント食べなくていいのか、食費かからなくていいな。」
「結構物足りないんだぞ?」

そうだ、お前も一回味わってみろ、腹減らないのは不思議だぞ?

「じゃぁ食えばいいじゃん」

軽々しく言ってくれるな

「奢ってくれんのか?」
「いんや」

こやつめ・・・

「取り憑いちゃうぞ?」
「もう、取り憑かれてるようなもんだ、お前が着てから電気代が倍だよ」

それもそうだな、よし、ここは労いの言葉でもかけてやるか。

「ごくろうさん」
「おまえな」
「ぬぉあ!」

やばいしくった、ちくしょう・・・

「どうした?いきなり大きな声出すな、びっくりするだろ」
「8連鎖潰された・・・」
「さいですか・・・」

瀬戸口にあきれられたのかおれ?
まぁいいや、そんなこと言うとな・・・

「そんなこというとこのドラクエの冒険の書消しちゃうよ?」
「やめろ!!それはがんばってレベルマックスまでやってあるんだ!!」
「ホントお前も暇人だな」
「お前に言われとぉないわ!早くメモリーカード返せ!」

ん・・・?

「瀬戸口、おまえ前にも俺に何かさ、必死にって言うのか?まぁなんか訴えてなかったか?」
「・・・別に、気のせいだろ・・・」
「そうか・・・?」

なんか引っかかるが今はぷよぷよの方が大事だな。

「ん、もうニュースの時間だからテレビ返してくれ」

ちっ、しょうがない、仮にも居候の身このくらいは言うこと聞いてやらないとな。

「ほらよ。」

そういって俺はゲームの電源を切りチャンネルをNHKに変える、何か陰謀がありそうな気もしないでもないな。
にしてもこんなニュースなんて見てなにが面白いんだ?

「世の中のことを少しは知ろうとしないのか?」
「な、いつから心が読めるようになった!!」
「顔に書いてあるだけだよ」
「さいでっか」

驚かせやがって、待てよ?顔に書いてあったって俺はサトラレか?いやこれはしゃれにならんじゃないか

「いいからおとなしくニュース見てろよ」
「ぅむ・・・」

なんか釈然としないなまぁ、たまにはニュースも悪くはないか

「自殺なんて酷いこともあるんだな」

ニュースでは最近ブームみたいに少年が自殺していることをやっていた、俺も素直な感想を言ったまでなのだが
ブームは不謹慎だったな、すみません

「・・・」

なんだ瀬戸口の奴無視かよ、なんか暗い顔しやがって・・・
ん?自殺?ぁー?

あ、そうだ俺、自殺したんだった・・・

あの時、俺は人間不信から怖くて家から出られないでいた。
いわゆる引き篭もりだ、それで大学の進級も危うくなって将来の自分に、未来に絶望して死のうと思って包丁を持った。
そのとき、心配したのか瀬戸口がうちに来た、無視して死のうと思ったんだがなぜか躊躇していたところ瀬戸口が無理やりドアを開けて入ってきたんだったな。
そこで止めに入った瀬戸口を見た俺は混乱しちまってそのまま・・・


「なぁ、瀬戸口」
「んぁ?」
「ありがとな」
「なんだ気色悪い」
「うるせぇ」

いざ思い出してみても何にも行動が起こせないなんて俺へタレだな、いらいらする・・・

「思い出したんだね」

ん?今子供の声が聞こえたか?

「ねぇ、思い出したんだ」

目の前に小学生ぐらいの子供がいた、なんだこのガキいったいいつ入ってきやがった、コ○ンみたいに蝶ネクタイまでして

「オイ、瀬戸口、このガキお前の知り合いか?」
「はぁ?何のことだ?」
「いや、そこのガキだよ、蝶ネクタイした」
「ん?頭いかれちまったか?」

おいおい、幽霊見えてるくせにこのガキが見えないのかよ、くすくす笑いやがってむかつくガキが思いっきりここにいるじゃないか。

「無駄だよ。」
「何がだ?」
「僕は生きた人には見えないよ。」
「そうか、さてはお前も幽霊か何かか?」

気味が悪い、やけに落ち着き払ったガキだ、見た目なんて小学生にしか見えないのになんなんだこいつは変な威圧感がある、嫌な汗が体中から出てくるのがわかる
瀬戸口が静かにしろとか言ってるけどもうそんなの気にしてる余裕なんてない、いったいなんなんだよ・・・

「君を連れに着たんだよ」

なんだ?俺を連れて行くってあの世か?そうか俺も成仏できるのか、これ以上瀬戸口に迷惑かけるのも気が引けるし丁度よかったな。
なんてのん気な考えが頭に浮かぶが内心はちっとも穏やかじゃない、今すぐ逃げ出したい気分なのに体が言うことを聞かない。

「俺もとうとう成仏できるってことか?」
「そんなところかな」
「そうか、じゃぁ天国でも地獄でも連れてってくれ」
「何いってるの?自殺なんてした奴がそんないいとこいけるわけないじゃん」
「え・・・?」

ここで俺の意識が遠のいく、瀬戸口がなんか叫んでいるけどよく聞き取れない
俺は・・・後d・・・なる・・・だ・・・・・・・・・

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